小説「猫の音」(最終回)
ある晴れの日 私がゆっくりとまぶたを開いたとき、目に入ってきたのは八時十五分を指す目覚まし時計だった。 このあいだ買ってもらったばかりのピンクの可愛らしい小さな時計は、無慈悲に時間を私に教えてくれていた。 「えっ!?……遅刻!」 勢いよく布団を蹴り上 ...
小説「猫の音」(第九回)
金曜日 ゆっくりとまぶたを開いた時、私の目に入ってきたのは私を抱きしめるママの寝顔だった。 のそのそ、と猫の身体になった時に覚えた動きで身体を柔らかくして、腕から逃げたのだが、眠っているママは無意識にまた私をその腕の中へと閉じ込めてきた。 「うー…もう ...
俳句六首 かず子作
白椿 美しき君の 肌色にも似て負けないと 桜の雨に 祈る朝梅雨の木漏れ日 あつめて芽吹く 赤皐月 夏風と 止まらぬ汗と 蝉しぐれ「さみしいの」 届かぬ想い 腕に刻んだ うそだらけ ほんとの夢を まぎれさせ ...
小説「猫の音」(第八回)
木曜日 ゆっくりまぶたを開いたとき、私の目に入ってきたのはうずくまって震えているユキさんの姿だった。 慌てて身体を起こし、ユキさんの体をゆっくり手で触ってみる。すると、その体は昨日抱きしめてくれていた時とは打って変わって冷たくなってしまっていた。 「ユキ ...
小説「猫の音」(第七回)
水曜日 ゆっくりまぶたを開いたとき、私の耳に聞こえてきたのは、聞き覚えのある、それでいて聞き覚えのない女性の声だった。 まどろみから抜け切らずにいた頭を振ってそっと屋根の下をのぞくと、高いであろうスーツをヨレさせ、警察官らしき服の人と何やら口論している女 ...
短編「ハゲと女子高生の話」かず子作
✳︎注意 性的な表現が含まれます。苦手な方は閲覧をお控えください高校の玄関で四人の女子高生がめいめいに靴を履き替えている。学校指定のハルタのローファーを履いているのは一人だけで、ニューバランスのスニーカーやコンバースのオールスターなど、外履きに履き替えたみ ...
小説「猫の音」(第六回)
火曜日 ゆっくりとまぶたを開いたとき、私をのぞきこんでいるユキさんが目に入った。 「あ、おはようございます」 おはよう、と軽く返してくれたユキさんはいつから私を捉えていたのかわからない瞳を瞼に隠し、自身の腕の中へと顔を埋めた。チリン、と微かに鈴の音が鳴っ ...
小説「猫の音」(第五回)
月曜日 ゆっくりとまぶたを開いたとき、私が聞いたのはどこかの女性の怒鳴り声だった。 「早く起きなさい!遅刻しても知らないわよ!」 子どもを叱る声だろう。外まで聞こえるその大声にぼんやりとした頭を振りながら私はのそのそと身体を起こした。 「はぁ、もう月曜 ...









