月曜日
ゆっくりとまぶたを開いたとき、私が聞いたのはどこかの女性の怒鳴り声だった。
「早く起きなさい!遅刻しても知らないわよ!」
子どもを叱る声だろう。外まで聞こえるその大声にぼんやりとした頭を振りながら私はのそのそと身体を起こした。
「はぁ、もう月曜日か…。……学校、行かなきゃ」
昨日はユキさんに付いていき、朝ごはんをくれたおばあちゃんの家と、余り物をくれた魚屋さんに寄った。後はずっと陽のあたるところで眠っているユキさんの横で新しい私の名前を考えていただけだったが、それでも今までで一番楽しかった。
だからこそ、今日という日が憂鬱で仕方がない。
どうせ行っても話す人もいないし、周りの子にはからかわれ、弱虫だといじめられるだけだ。いつも平日、とりわけ月曜日の朝は私が一番苦手な時間だった。そんな私の横から、ユキさんが顔をのぞかせてきた。
「何言ってるの、あなたは猫なのよ?学校なんてあるわけないじゃない」
「えっ……あ、そっか…!」
私、野良猫なんだった!
いつもなら憂鬱なこの月曜の朝も、ユキさんの一言で一気にご機嫌な朝へと早変わりした。
もう学校に行かなくてもいい!いじめられることももうない!家に帰ってから一人コンビニに向かうこともない!
嬉しくなった私は、思わず起き上がって寝ていた屋根を飛び降りた。
そんな私を見ながら、ユキさんはあきれたように耳をたたんでまた丸まってしまったのだった。
町に降り立った私は、いきなり蹴飛ばされてしまった。痛みはなかったが、驚いて壁に飛びついた。私を蹴飛ばしたサラリーマンは腕時計を見ながら駅へと走っていくだけで、私の方を見ることもなかった。
危なくないように塀に避難した私はそのままぼんやりと道を見ていたが、どこを見ても人だらけで休日よりも人通りが多く感じる。
眠たそうに携帯をいじりながら歩く学生服の人達。大声で騒ぐ子どもの手を引いているお母さん。そんな人達を置き去りにするように、早足で先を急ぐスーツ姿の大人達。
この景色の中に、今まで私もいたんだよなぁ、とぼんやり考えながら丸まると大きくあくびを一つした。生き急ぐような、忙しそうにする人達に向けて見せつけるように、大きくて長いあくびを。

