金曜日


ゆっくりとまぶたを開いた時、私の目に入ってきたのは私を抱きしめるママの寝顔だった。 
のそのそ、と猫の身体になった時に覚えた動きで身体を柔らかくして、腕から逃げたのだが、眠っているママは無意識にまた私をその腕の中へと閉じ込めてきた。 

「うー…もう…」 

お手洗いへと行きたかったのが、この様子ではまた抜け出しても捕まえられてしまうだろう。困った声を上げた私の頬はきっと緩んでしまっているのかもしれない。はじめての幸福感に身をゆだねてママの身体を抱きしめて考えるのは、昨日の夜のことだった。 

家に帰ってきてから、今までの時間を取り返すようにママとはたくさんお話をした。 
仕事を休み、毎日私を探し回ったせいで汚れてしまった全身を綺麗にするように一緒にお風呂にも入った。 
一週間もどこに行っていたの、と当然の質問もされたが、それは「うーん…覚えてない」とだけ返しておいた。 

あれが夢だったのか現実なのか。今でもよくわかっていないのだ。ママに話すには自分でも整理がついていない。 
お風呂から上がり、申し訳なさそうにインスタントのご飯を出してくれたママと並んで食べた晩御飯は、食べ慣れた味だったが、その中には確かに幸せの味が入っていたように思う。 
それから布団の中でもたくさんお話をして、眠気に負けてしまうまでずっとずっとママは私を抱きしめながら会話をしてくれた。 

ユキさんが言ってくれたように、世界はほんのちょっとしたことで景色が変わるんだ。一瞬で自分の見える世界が幸せの色に染まっていくのがわかった。 

ただ一つ。 
ベランダに白猫が現れなかったことをのぞいて。

     IMG_0574


(つづく)